英語学習者が陥りがちな罠その1:単語帳を使って(作って)ひたすら暗記する(4)「基本的な単語はすべて暗記すべき」について考える(後編)

前日の記事からの続き。
今私は、英語学習に対する次のような考え方について疑問を投げかけている。このような考え方をまず捨てませんかと。

  • “基本的な単語”はすべて暗記すべき
  • “基本的な単語以上に難しい単語”にはあまり“実用性がない”
  • “基本的な単語”の使い方を覚えることの“実用性は高い”

こういった考えを持っている英語学習者の頭の中では、英単語が以下のように区分けされているものと想像する。


そして、まずなによりも基本的な単語群Aの訳語を頭に詰め込まなければならないとの思いから、“無批判的に”、自分にとっての基本単語群Aをカバーしてくれそうな単語帳に手が伸びるのである。“基本的な単語群A”は人によって異なるので、例えばTOEIC受験者なら「TOEICスピードマスター○○単語帳」等、初級者なら「まずはここから○○単語帳」等とでもなるだろうか。「統計的に」「膨大なデータベースより特に頻度の高い単語を厳選した」「コーパスを用いて」等の宣伝文句が帯で躍っていると、より手に取ってしまいがちである。

だが、単語帳に手を伸ばす前に、もし手元に現在使用中の単語帳があるのなら、新たな単語帳に手を出す前に考えてほしい。基本単語群Aと難しい単語群Bを区分した判断の根拠は何か、そしてその判断のしかたは妥当なのか、と。

私が英単語を区分けするのなら以下のように考える。


自分が知っている単語か、知らない単語か、ということだけである。

私が思うに、よく言われる基本的な、実用的な単語とはつまるところ、自分が知っている、自分の持っている単語帳に載っている、あるいは自分にとって親しみやすいということではないのか。難しい、実用的でない単語とは、自分が知らない、自分の持っている単語帳に載っていない、あるいは自分にとってなじみがないというだけのことではないのか。やや辛辣な言い方をすると、自分の知的射程圏内にあるものを実用的な単語、その範囲外にあるものを実用性の低い単語、という分類のしかたをする学習者が少なくないという気がしてならない。

精神論的な話になるが、英語に限らず何かを学ぶというときに、まずもって自分の知的射程圏を用意し(残念なことを言うと、これは通常極めて狭い)、それに応じて各種情報を「実用的」「非実用的」と仕分けしている限り、平均レベルから抜きん出ることはないと思う。

私が高校三年生の頃、受験が近づいてくると授業中の教室内で次のようなやり取りが幾度となく繰り返された。主に物理の授業で、先生が教科書に載っていない、あるいは「応用学習」と別扱いで記載されているような内容の話を始めると、少なくないクラスメートが「そんなの(入試の)試験に出ない!」と抗議をし始めるのである。みんなが学んでいることだけを自分たちにも教えてくれと言わんばかりに。平均的なレベルに留まることを自ら請い願っていたのである。そんな彼らが第一志望に受からなかったのは偶然ではあるまい(私も落ちたが…また、友達としての好き嫌いとこれとは別の話である)。


話を英語学習に戻そう。ここでの私の主張は、今まで当たり前のように信じていた、「実用的で基本的な単語」「非実用的で難しい単語」という分類の仕方をやめませんか、ということである。その効用の一つは、

という思考の流れを相対化できる(いや、ちょっと待てよ。語彙力を増やすためのほかの方法もあるんじゃないかと思える)ことである。効用のもう一つは、今まで単語帳の暗記に取られていた時間を他の勉強にまわせるということだ。その「他の勉強」というのが、今後書いていく予定であるが、「たくさんの英文を読み、聴く(ただし、同じ文章で構わない)」ということである。“多読”と言うと世間ではペーパーバック、ということになるのだろうが、挫折者が多いのも事実である。私もそのうちの一人である(もう一度挑戦したいとは思っている)。

では私が今までどのようなものを読んできたのか、ということを今後書いていきたい。


本ブログのトップページ
この記事のひとつ前
この記事の続き
日英中トリプル瞬間作文
英語学習〜語彙力編〜
英語学習〜発音編〜
英語学習〜文法編〜
英語学習〜多聴・多読編〜
英語学習〜会話編〜
英語学習〜番外編〜


P. S. 1
前日の記事で取り上げたI、R両氏は、恐らく日本人の中では英語に関して上級者である。自分なりに勉強法を考え、工夫し、それを発信できる人たちである。ここ数日の記事は、そういった人たちを説得しようとして書かれてはいない(正直言って勉強方法は人それぞれであり、合う合わないということもある)。言い換えれば、自分なりに勉強法を考え、工夫し、それを発信するまでに至ってない人たちを読者として想定して書かれている。そういった人たちの中から、これらの記事の内容に共感し、それを実行に移し、結果として英語を上達させることができたという人が一人でも現れたのなら、それでよい。(もちろんそれ以外の人が読んでくれても嬉しいです。I、R両氏のようになんらかの反応をしてもらえると、自分にとっても為になります)

I氏 twitter
R氏 twitter


P. S. 2
この記事で論じている「実用性」と、R氏の言う「実用性」との間に、認識の違いがあることが分かりました。ただ、ここに書いてある認識のしかたも英語学習者の一部にありそうなので、本人からの削除依頼がない限りこのままにしておきます。